防大名誉教授 村井友秀氏の論考である。安全保障の碩学である村井教授の意見は、いつも興味深い。
教授の言わんとしているのは、非対称戦の本質についてだ。大胆に言えば、敵と同じ土俵で戦ってはならない、ということだ。自分の土俵で戦えば、勝つことはできなくとも、負けることは無い、ということだ。
氏の分析に従えば、中国は、米国と同じ土俵に立って戦おうとしている、ということだろう。それはそうだ。海は海洋国家の土俵なのだ。一帯一路構想に基づき、対外膨張を遂げようとすれば、いやでも海洋進出せざるを得ない。
一つには、九段線が、海上輸送の重要なルートを制するからだ。逆にこのルートを日米連合が制していれば、中国は、即死するだろう。中国人民13億人の経済活動を継続させるためには、莫大な海上輸送が必要だからだ。
二つ目は、軍事的要請だ。占領している南シナ海の環礁周辺は、適度な深度がある。これが、戦略ミサイル原潜を遊弋させる絶好の海域なのだ。東シナ海では浅すぎて、原潜を運用できないのだ。だから、是が非でも南シナ海の主要海域を内海化したい、こういうことなのだ。
だが、同時に南シナ海の九段線を自国の領海と主張し、環礁を軍事拠点化している中共にとっては、負の資産を形成しつつあるということも言える。広大な海域の各環礁に軍事拠点を構築し、大陸から海空の輸送路を使用して、莫大な後方支援をしなければならない。かつ、有事を想定すれば、その輸送路を守るための軍事力を不断に維持しなければならない。こういうことなのだ。
大陸から近い南シナ海といえども海洋であることに変わりはない。海は海洋国家の土俵だ。中国は、南シナ海を軍事拠点化したことで、いやでも日米海洋連合と同じ土俵で戦わざるを得なくなった。村井教授の言わんとしていることの一部が、これだ。
では、中国は南シナ海を制していれば、安泰かと言えばそうではなかろう。中国が生きていくためには、最低限エネルギーと食料の輸送が不可欠だ。エネルギーについていえば、中東から中国沿岸までのシーレーン全てが含まれる。そのすべてを中国海軍は制することができるのだろうか。
不可能だ。インド洋も太平洋も制しているのは米国だ。第7艦隊を主力とする米太平洋軍が制している。つい最近外征軍に変貌を遂げつつある中国海軍は、米海軍の敵ではない。海上でも海中でも、海域の上空でも米軍の敵ではない。かろうじて、大陸から近い九段線内では、ある程度戦えるかもしれないが、日米が全力を投入すれば、勝敗の帰趨は明らかであり、時間の問題となる。
シーレーンを日米に抑えられれば、原油もその他の物資も中国に輸送することはできない。太平洋は米軍が抑えている。南米からの食糧輸送も不可能だ。大陸は干上がるほかない。海で戦うとはこういうことなのだ。
13億の人民が生きていくためのエネルギーと食料がなければ、滅亡するほかはない。日米の土俵で戦おうとする中共は敗北の道を歩んでいる。
米国が敗北したベトナム戦争について、ジョンソン米大統領は次のように述べていた。「国内に分裂と悲観論が広がり、国民の戦意が崩壊することが北ベトナムの頼みの綱であった」。
戦争は軍隊の戦闘能力と国民の戦う意志によって支えられている。国民の戦う意志が崩壊すれば戦争に負ける。米国より戦闘能力に劣る北ベトナムの戦略は、戦争を長期化して米国民の戦う意志を挫くことであった。但し、米軍と戦えば大損害を被ることは避けられず、大損害に耐えられる体制であることが前提になる。ベトナム戦争に負けた米軍の死者は5万8000人、勝ったベトナムの死者は300万人を超えた。
毛沢東は、強敵に対する戦略として国民を総動員し長期の遊撃戦を戦う人民戦争を構想した。当時の中国は、戦時下でも自給自足が可能な農村人口が国民の8割以上あり、経済は自力更生で対外貿易に依存せず、農村には過剰労働力が溢れていた。広大な国土と5億人を超える人口が数百万人の損害を吸収し、米国が戦争に疲れるのを待つ戦略であった。
しかし、現在の中国は都市化と少子化が進み、経済は貿易に依存し、経済発展が共産党支配を支えている。農村人口は4割に減少した。現在の中国で、経済発展を支える都市が破壊され、一人っ子の若者が多数戦死すれば、、経済は崩壊し国民の不満が爆発して共産党政権は倒れるだろう。現在の中国は長期にわたる人民戦争を戦うことができず、短期間の局地戦争しか戦えない体質になっている。
現在、中国軍は陸軍を縮小し、海空軍を増強して外征軍である米軍型に変わろうとしている。中国が「一対一路」周辺国への影響力を強化するために、海軍を増強し近代化を進めれば、中国軍は米軍化して非対称性を失い、米軍にとって同じルールで戦える敵になる。
中国軍の空母は、空母を攻撃する能力のない弱小国には大きな脅威になるが、米軍にとっては格好の攻撃目標になるだけである。空母とステルス機で戦う戦争ならば中国軍に勝ち目はない。ベトナム戦争で南ベトナム解放戦線議長は次のように述べた。「米軍は我々の条件で戦わなければならない。我々が彼らの主導権で戦うのではない」。
朝雲新聞 10月1日 村井友秀(防大名誉教授 東京国際大学特命教授)
(引用終わり)
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教授の言わんとしているのは、非対称戦の本質についてだ。大胆に言えば、敵と同じ土俵で戦ってはならない、ということだ。自分の土俵で戦えば、勝つことはできなくとも、負けることは無い、ということだ。
氏の分析に従えば、中国は、米国と同じ土俵に立って戦おうとしている、ということだろう。それはそうだ。海は海洋国家の土俵なのだ。一帯一路構想に基づき、対外膨張を遂げようとすれば、いやでも海洋進出せざるを得ない。
一つには、九段線が、海上輸送の重要なルートを制するからだ。逆にこのルートを日米連合が制していれば、中国は、即死するだろう。中国人民13億人の経済活動を継続させるためには、莫大な海上輸送が必要だからだ。
二つ目は、軍事的要請だ。占領している南シナ海の環礁周辺は、適度な深度がある。これが、戦略ミサイル原潜を遊弋させる絶好の海域なのだ。東シナ海では浅すぎて、原潜を運用できないのだ。だから、是が非でも南シナ海の主要海域を内海化したい、こういうことなのだ。
だが、同時に南シナ海の九段線を自国の領海と主張し、環礁を軍事拠点化している中共にとっては、負の資産を形成しつつあるということも言える。広大な海域の各環礁に軍事拠点を構築し、大陸から海空の輸送路を使用して、莫大な後方支援をしなければならない。かつ、有事を想定すれば、その輸送路を守るための軍事力を不断に維持しなければならない。こういうことなのだ。
大陸から近い南シナ海といえども海洋であることに変わりはない。海は海洋国家の土俵だ。中国は、南シナ海を軍事拠点化したことで、いやでも日米海洋連合と同じ土俵で戦わざるを得なくなった。村井教授の言わんとしていることの一部が、これだ。
では、中国は南シナ海を制していれば、安泰かと言えばそうではなかろう。中国が生きていくためには、最低限エネルギーと食料の輸送が不可欠だ。エネルギーについていえば、中東から中国沿岸までのシーレーン全てが含まれる。そのすべてを中国海軍は制することができるのだろうか。
不可能だ。インド洋も太平洋も制しているのは米国だ。第7艦隊を主力とする米太平洋軍が制している。つい最近外征軍に変貌を遂げつつある中国海軍は、米海軍の敵ではない。海上でも海中でも、海域の上空でも米軍の敵ではない。かろうじて、大陸から近い九段線内では、ある程度戦えるかもしれないが、日米が全力を投入すれば、勝敗の帰趨は明らかであり、時間の問題となる。
シーレーンを日米に抑えられれば、原油もその他の物資も中国に輸送することはできない。太平洋は米軍が抑えている。南米からの食糧輸送も不可能だ。大陸は干上がるほかない。海で戦うとはこういうことなのだ。
13億の人民が生きていくためのエネルギーと食料がなければ、滅亡するほかはない。日米の土俵で戦おうとする中共は敗北の道を歩んでいる。
米国が敗北したベトナム戦争について、ジョンソン米大統領は次のように述べていた。「国内に分裂と悲観論が広がり、国民の戦意が崩壊することが北ベトナムの頼みの綱であった」。
戦争は軍隊の戦闘能力と国民の戦う意志によって支えられている。国民の戦う意志が崩壊すれば戦争に負ける。米国より戦闘能力に劣る北ベトナムの戦略は、戦争を長期化して米国民の戦う意志を挫くことであった。但し、米軍と戦えば大損害を被ることは避けられず、大損害に耐えられる体制であることが前提になる。ベトナム戦争に負けた米軍の死者は5万8000人、勝ったベトナムの死者は300万人を超えた。
毛沢東は、強敵に対する戦略として国民を総動員し長期の遊撃戦を戦う人民戦争を構想した。当時の中国は、戦時下でも自給自足が可能な農村人口が国民の8割以上あり、経済は自力更生で対外貿易に依存せず、農村には過剰労働力が溢れていた。広大な国土と5億人を超える人口が数百万人の損害を吸収し、米国が戦争に疲れるのを待つ戦略であった。
しかし、現在の中国は都市化と少子化が進み、経済は貿易に依存し、経済発展が共産党支配を支えている。農村人口は4割に減少した。現在の中国で、経済発展を支える都市が破壊され、一人っ子の若者が多数戦死すれば、、経済は崩壊し国民の不満が爆発して共産党政権は倒れるだろう。現在の中国は長期にわたる人民戦争を戦うことができず、短期間の局地戦争しか戦えない体質になっている。
現在、中国軍は陸軍を縮小し、海空軍を増強して外征軍である米軍型に変わろうとしている。中国が「一対一路」周辺国への影響力を強化するために、海軍を増強し近代化を進めれば、中国軍は米軍化して非対称性を失い、米軍にとって同じルールで戦える敵になる。
中国軍の空母は、空母を攻撃する能力のない弱小国には大きな脅威になるが、米軍にとっては格好の攻撃目標になるだけである。空母とステルス機で戦う戦争ならば中国軍に勝ち目はない。ベトナム戦争で南ベトナム解放戦線議長は次のように述べた。「米軍は我々の条件で戦わなければならない。我々が彼らの主導権で戦うのではない」。
朝雲新聞 10月1日 村井友秀(防大名誉教授 東京国際大学特命教授)
(引用終わり)
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