菅総理大臣は、11月28日航空自衛隊入間基地で行われた航空観閲式で自衛隊員を前に訓示を行ったと、28日付jiji.comが伝えている。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020112800281&g=pol
自衛隊にも「縦割り排除を」という表題になっているのだが、小生は違和感を覚えた。
違和感を覚えたのは3点ある。
第1点 縦割り排除。
「組織の縦割りを廃し、陸海空自衛隊の垣根を越えて取り組むことが重要だ」と語った。帝国陸海軍の予算争奪戦を彷彿とさせる表題に、時代錯誤を感じた。
菅総理は、自衛隊の縦割り行政の弊害について知見があるのだろうか?というのが素朴な疑問だ。統合幕僚監部が平成18年に編成され、陸海空の統合運用が始まった。以来、十数年経過し、運用に関して縦割りの弊害はないというのが、現状ではないのか?
それをわざわざ航空観閲式の訓示で、総理大臣が言うべき程自衛隊の中で問題となっているのだろうか?小生は、これまでそのような話は聞いたことがない。編成当初こそ、陸海空の運用に慣れていない各幕僚が意見をすり合わせるのに苦労したというならわかるが、統合幕僚会議を発展的に解消してできた統幕があるのにも関らず、縦割りの弊害を廃止、と総理大臣が言うとすれば、現状認識に大きな齟齬がある。
統合幕僚会議が、統合幕僚監部に変わる際に、各幕僚監部や内局から異論が出て、何度もとん挫したのは聞いている。だが、統合幕僚監部編成後、十数年を経た現在、そのような話は寡聞にして聞かない。
仮にあるとすれば、予算要求にあると思われる。統幕はフォースユーザーであり、戦力を編成するのは、フォースプロバイダーである各幕僚監部である。これをもって縦割りの弊害と言っているのだろうか?
もしそうだとすれば、自衛隊内部で十分解消できるだろう。統幕は、フォースユーザーの立場として、陸海空各自衛隊の予算要求について、総合調整できる権能を与えればよいだけだ。そういう権能の出現を各幕僚監部が阻害しているのならば、それこそ縦割りの弊害と言うことになろう。ただし、いずれに問題があるとしても、航空観閲式で総理大臣が述べる訓示にそれを含めるのはおかしいだろう。空自隊員の労をねぎらい、日夜勤務に励む航空自衛隊の隊員を励まし、練度向上を望むのは、最高指揮官たる総理大臣の訓示のあるべき姿ではないのか?なぜ、そこで縦割りの弊害を言う必要があるのだ?
第2点 オリンピックへの期待。
期待があるのは当然だ。だが、第1点と同じ論旨で、航空観閲式で言及すべきことか?ということなのだ。航空自衛隊に望むのは、我が国領空を守り、国家の平和と独立に寄与することだろう。来年、オリンピックが開かれるとはいえ、オリンピック支援は、航空自衛隊にとって、主たる任務ではない。そこに違和感を感ずるのだ。
第3点 訓示の草稿を書いたのは誰だ。
Jiji.comの記事では、菅カラーという単語が目を引いた。これが、単なるメディアの修飾語なのか、官邸あるいは防衛省からもたらされた情報をメディアが忖度したのか、いずれかであろうが、航空観閲式に、菅カラーを出す必要があるのか?というのが小生の問題認識だ。読売の記事にも同じフレーズがあるのを考慮すると、メディアではなく、官邸サイドあたりからの情報なのだろう。
いったい誰がこのような姑息な手段を考え付いたのだ。縦割りの弊害を指摘され、オリンピック支援を期待された航空自衛隊の隊員はがっかりしたことだろう。日常の厳しい訓練、領空侵犯対処等により、我が国を守っている航空自衛隊の隊員に感謝と敬意を払うことが、まず求められる訓示の内容だ。
総理大臣の前に整列する航空自衛隊部隊の隊員に縦割りの弊害を言って何の狙いがあるのだ?オリンピック支援に期待していると言われても、ごく一部のものが頷くだけで、大半の隊員には関係ないのだ。
この訓示の案を作成した者のセンスを疑う。官邸か防衛省か知らないが、現場を知らない、官僚だろうな。こういう場合は、統合幕僚監部か、航空幕僚監部に素案を作成させるべきなのだ。彼らなら、隊員がどういう訓示を期待しているか、関係各国の軍事中枢にどのようなメッセージを送るべきか、身をもって知っているからだ。
もちろん、我が国を取り巻く安全保障環境や政治環境について、防衛省や官邸が筆を加えるのはいささかも問題ない。だが、骨子は、統幕か空幕が作成するべきだ。少なくともこの訓示を聞いて、両幕僚監部が訓示の案に関与したとは思えない。
これこそ、縦割り行政の弊害ではないのか?シビリアンコントロールとは、政治が軍事に優先することなのであり、官僚が自衛官に優先することではないのだ。何故、現場の声を聴かないのだ?菅カラーが最初から色褪せているぞ。
最後に、一体だれに向かって訓示したのだ?
菅総理の訓示を聞いているのは、自衛隊員だけではない。招待者、特に各国駐在武官も聞いている。駐在武官は、各国から派遣されているエリート軍人だ。そして、軍人同士のコミュニケーションだけではなく、情報収集も行っている。
航空観閲式に参列している駐在武官は、並んでいる航空自衛隊の一挙手一頭足や頭上を飛んだ航空機を目を皿のようにして見ていたに違いない。そして、航空自衛隊の実力と士気と規律を判断した。
更に、総理大臣の訓示も耳をそばだてて聞いている。何を言うのか、しっかり聞いて、当該国に影響のある言辞については、コメントを付して本国に報告していることだろう。それが、駐在武官の役割だからだ。
今回の菅総理大臣の訓示を各国駐在武官はどのように聞いただろうか。特に中華人民共和国から派遣されている人民解放軍駐在武官の分析と感想を聞いてみたいものだ。総理大臣の訓示は、参列している各国駐在武官を通じて、各国軍事中枢、政治中枢が聞き耳を立てている。
小生は、総理大臣を補佐するスタッフが、どこまで考えて今回の訓示を起案したのか、甚だ関心がある。自衛隊の内部に縦割り行政の問題があり、政府の当面の関心は、来年の東京オリンピック支援にあるということが内外に表明された。さて、駐在武官は頭を悩まして、報告文書を作成したに違いない。こんなへんな国はない、と思いながら。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020112800281&g=pol
自衛隊にも「縦割り排除を」という表題になっているのだが、小生は違和感を覚えた。
違和感を覚えたのは3点ある。
第1点 縦割り排除。
「組織の縦割りを廃し、陸海空自衛隊の垣根を越えて取り組むことが重要だ」と語った。帝国陸海軍の予算争奪戦を彷彿とさせる表題に、時代錯誤を感じた。
菅総理は、自衛隊の縦割り行政の弊害について知見があるのだろうか?というのが素朴な疑問だ。統合幕僚監部が平成18年に編成され、陸海空の統合運用が始まった。以来、十数年経過し、運用に関して縦割りの弊害はないというのが、現状ではないのか?
それをわざわざ航空観閲式の訓示で、総理大臣が言うべき程自衛隊の中で問題となっているのだろうか?小生は、これまでそのような話は聞いたことがない。編成当初こそ、陸海空の運用に慣れていない各幕僚が意見をすり合わせるのに苦労したというならわかるが、統合幕僚会議を発展的に解消してできた統幕があるのにも関らず、縦割りの弊害を廃止、と総理大臣が言うとすれば、現状認識に大きな齟齬がある。
統合幕僚会議が、統合幕僚監部に変わる際に、各幕僚監部や内局から異論が出て、何度もとん挫したのは聞いている。だが、統合幕僚監部編成後、十数年を経た現在、そのような話は寡聞にして聞かない。
仮にあるとすれば、予算要求にあると思われる。統幕はフォースユーザーであり、戦力を編成するのは、フォースプロバイダーである各幕僚監部である。これをもって縦割りの弊害と言っているのだろうか?
もしそうだとすれば、自衛隊内部で十分解消できるだろう。統幕は、フォースユーザーの立場として、陸海空各自衛隊の予算要求について、総合調整できる権能を与えればよいだけだ。そういう権能の出現を各幕僚監部が阻害しているのならば、それこそ縦割りの弊害と言うことになろう。ただし、いずれに問題があるとしても、航空観閲式で総理大臣が述べる訓示にそれを含めるのはおかしいだろう。空自隊員の労をねぎらい、日夜勤務に励む航空自衛隊の隊員を励まし、練度向上を望むのは、最高指揮官たる総理大臣の訓示のあるべき姿ではないのか?なぜ、そこで縦割りの弊害を言う必要があるのだ?
第2点 オリンピックへの期待。
期待があるのは当然だ。だが、第1点と同じ論旨で、航空観閲式で言及すべきことか?ということなのだ。航空自衛隊に望むのは、我が国領空を守り、国家の平和と独立に寄与することだろう。来年、オリンピックが開かれるとはいえ、オリンピック支援は、航空自衛隊にとって、主たる任務ではない。そこに違和感を感ずるのだ。
第3点 訓示の草稿を書いたのは誰だ。
Jiji.comの記事では、菅カラーという単語が目を引いた。これが、単なるメディアの修飾語なのか、官邸あるいは防衛省からもたらされた情報をメディアが忖度したのか、いずれかであろうが、航空観閲式に、菅カラーを出す必要があるのか?というのが小生の問題認識だ。読売の記事にも同じフレーズがあるのを考慮すると、メディアではなく、官邸サイドあたりからの情報なのだろう。
いったい誰がこのような姑息な手段を考え付いたのだ。縦割りの弊害を指摘され、オリンピック支援を期待された航空自衛隊の隊員はがっかりしたことだろう。日常の厳しい訓練、領空侵犯対処等により、我が国を守っている航空自衛隊の隊員に感謝と敬意を払うことが、まず求められる訓示の内容だ。
総理大臣の前に整列する航空自衛隊部隊の隊員に縦割りの弊害を言って何の狙いがあるのだ?オリンピック支援に期待していると言われても、ごく一部のものが頷くだけで、大半の隊員には関係ないのだ。
この訓示の案を作成した者のセンスを疑う。官邸か防衛省か知らないが、現場を知らない、官僚だろうな。こういう場合は、統合幕僚監部か、航空幕僚監部に素案を作成させるべきなのだ。彼らなら、隊員がどういう訓示を期待しているか、関係各国の軍事中枢にどのようなメッセージを送るべきか、身をもって知っているからだ。
もちろん、我が国を取り巻く安全保障環境や政治環境について、防衛省や官邸が筆を加えるのはいささかも問題ない。だが、骨子は、統幕か空幕が作成するべきだ。少なくともこの訓示を聞いて、両幕僚監部が訓示の案に関与したとは思えない。
これこそ、縦割り行政の弊害ではないのか?シビリアンコントロールとは、政治が軍事に優先することなのであり、官僚が自衛官に優先することではないのだ。何故、現場の声を聴かないのだ?菅カラーが最初から色褪せているぞ。
最後に、一体だれに向かって訓示したのだ?
菅総理の訓示を聞いているのは、自衛隊員だけではない。招待者、特に各国駐在武官も聞いている。駐在武官は、各国から派遣されているエリート軍人だ。そして、軍人同士のコミュニケーションだけではなく、情報収集も行っている。
航空観閲式に参列している駐在武官は、並んでいる航空自衛隊の一挙手一頭足や頭上を飛んだ航空機を目を皿のようにして見ていたに違いない。そして、航空自衛隊の実力と士気と規律を判断した。
更に、総理大臣の訓示も耳をそばだてて聞いている。何を言うのか、しっかり聞いて、当該国に影響のある言辞については、コメントを付して本国に報告していることだろう。それが、駐在武官の役割だからだ。
今回の菅総理大臣の訓示を各国駐在武官はどのように聞いただろうか。特に中華人民共和国から派遣されている人民解放軍駐在武官の分析と感想を聞いてみたいものだ。総理大臣の訓示は、参列している各国駐在武官を通じて、各国軍事中枢、政治中枢が聞き耳を立てている。
小生は、総理大臣を補佐するスタッフが、どこまで考えて今回の訓示を起案したのか、甚だ関心がある。自衛隊の内部に縦割り行政の問題があり、政府の当面の関心は、来年の東京オリンピック支援にあるということが内外に表明された。さて、駐在武官は頭を悩まして、報告文書を作成したに違いない。こんなへんな国はない、と思いながら。
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