日米共同訓練、米陸軍ロケット砲を初実射 中露にらみ新戦術
2021/6/29 18:45 産経ニュース
https://www.sankei.com/article/20210629-ZIVXXO32QJPSDOXKOM5BC73YNE/
日米新戦術のカギは…「ウサデン」と火力打撃の融合
2021/6/29 18:52半沢 尚久有料会員記事 産経ニュース
6月29日付産経ニュースに“中露にらみ新戦術”とい興味深い記事が掲載された。
日米共同訓練が行われたのは、北海道矢臼別演習場と、米軍が展開した奄美大島である。
矢臼別演習場は、国内最大の演習場である。根釧台地にあり、東西約30キロ、南北約10キロの広さを誇り、最大約18キロの砲撃訓練ができる。
さて、表題は新戦術としているが、その内容については、二つ目の引用記事に書いてある。だが有料記事なので引用できない。
だが真新しいことが書いてあるわけではない。簡単に言うと、敵の電磁波情報を収集し、無人機等による情報と合わせて分析して、敵の所在を明らかにし、遠距離からの砲撃等によって撃滅する、というものだ。
実に教科書的戦術だ。こういう概念は、陸自草創期からあり、昭和の時代も平成の御代も自衛隊は、その実現に向けて細々と努力してきている。
昭和56年、陸自久里浜駐屯地に所在していた通信標定隊は、北海道東千歳駐屯地に移駐し、第1電子隊として、新たに発足した。標定隊は、戦場を飛び交う敵の電波を標定することを任務とする部隊である。
これが第1電子隊となり、標定(電磁波情報の収集)と電波発射を任務とするようになった。
標定とは何かというと、敵の電波源を特定することである。詳しい説明は省略するが、敵の周波数などの特性により、電波の発射された位置を概ね特定することができるのだ。
そして、その情報と、偵察衛星情報、航空偵察や偵察隊などの偵察情報を総合的に評価して、砲撃や航空攻撃目標の優先順位を決めるのである。
こういう訓練を自衛隊は、昭和の時代から連綿と行ってきている。だが、予算は増えないため、極々限られた範囲でのみ可能な戦術だった。
今回、産経の有料記事で紹介されているのは、その現代版である。
ちなみに第1電子隊が北海道に移駐したのは、当時、最も脅威だった、ソビエト連邦を想定した結果である。現在では、西部方面隊に同じような電子線部隊が編成されて展開している。当然、中国を意識してのことだ。
隔世の感がある。米軍が、米陸軍の高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)や、鹿児島県の奄美大島に米陸軍の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を展開したのは、米空母の損害を局限するためだと伝えられている。
空母に搭載されている各種航空機は、一か所に搭載されているため、ミサイルなどによる攻撃を受けた場合、甚大な損害を被る恐れがあるため、ハイマースやPAC3を地上展開し、中国海空軍を牽制しようとしているわけだ。

島嶼部に展開したミサイル部隊を発見して撃滅するためには、有人無人航空機、偵察衛星などにより目標情報を得ることになるだろうが、相当な損害を予想しなければならない。つまり、費用対効果が悪いのだ。
中国軍も戦力が無尽蔵なわけではない。なるべく損害を少なくし、効果を最大にしたいのだ。どこの国も同じように考える。
南西諸島のミサイル部隊を発見するために大規模な航空偵察を行えば、相当数の損害が予想される。そして、ミサイル部隊を100%発見できるわけではない。そこが問題なのだ。
対艦ミサイルや対空ミサイル部隊が残存している可能性がある限り、特に大規模な海軍艦艇による作戦行動は制約を受けるのだ。損害を局限するために。のうのうと宮古海峡を通峡できるわけではないのだ。
今回の日米共同訓練は、そういった訓練をすることで、中国軍に一定のプレッシャーを与えると同時に、中国軍の取りうる作戦の融通性を狭める効果がある。
そもそも空母遼寧は、張り子の虎なので、実戦に供し得ない。まともな海軍を持たない東南アジアの国向けの装備だ。問題は、第2・第3の空母だ。この空母は、当然遼寧より進歩しているだろう。エンジン出力は向上しているだろうし、艦載機も多数搭載できるように設計されている筈だ。
ただ、空母艦載機の出力不足が解決されているという情報は未だないようだ。つまり、新空母が進水しても、しばらく戦力にはならないだろう。だが、それがいつ実用化されるかは日米にもわからないので、安穏としているわけにはいかない。明日、問題が解決されるかもしれないのだ。そのために、営々と準備するのである。それが軍隊というものだ。
新戦術は新戦術ではない。米国はともかく、我が日本も少し本気になってきたというところだろうか。だが台湾有事は近い。ゆるゆるとした動きを中国は待ってはくれない。今からでも遅いくらいなのだ。
今年中にも行われるであろう衆議院選挙の結果を受けて、新政権が、防衛費を倍増し、将来の危険を少しでも減らしてくれることを望むものである。
陸自最大の演習場と雖も最大実弾射撃距離18キロは短い。今や射程距離30キロ以上が列国砲兵の常識である。やむなく、米国での射撃訓練が常態化している。国内にこれ以上の演習場を開設するのは、現実的ではない。だから現状はやむを得ない。
それだけはない。何度か言及しているが、自衛隊の兵站が脆弱なのだ。そして、勢力も。古来、兵員と兵站は、戦勝を左右する最も重要な要素の一つである。どんなに有能な将軍が部隊を率いても、限度がある。「大兵に戦術なし。」と言われるように、最後は兵の多寡が勝敗を決することが多いのだ。
兵站(ロジスティクス)もそうだ。ローマはロジスティクスで勝つ、と言われた。それほどローマ軍の戦いはスマートでシステマティックだった。兵站も一朝一夕に準備できるものではない。
防衛費を増額するなら、真っ先に手を付けるのは、勢力(自衛官の数)と兵站だろう。この二つは、必要な状態にするまでに、長い時間を必要とするからだ。ミサイルや砲弾を製造する工場や保管する弾薬庫の整備には、膨大な時間と予算が必要なのだ。
日清戦争から、大東亜戦争まで、帝国陸海軍を悩ませたのは、脆弱な兵站態勢だった。その問題点は、自衛隊になっても依然として解決されていない。問題点を知りながら放置するのは、大人の行いではない。戦争において、現実から目を背けることは敗戦を意味する。それは、究極的には、我が国の滅亡を意味する。日本人はそのことをよくよく考えるべきだと酒楽は思う。
2021/6/29 18:45 産経ニュース
https://www.sankei.com/article/20210629-ZIVXXO32QJPSDOXKOM5BC73YNE/
日米新戦術のカギは…「ウサデン」と火力打撃の融合
2021/6/29 18:52半沢 尚久有料会員記事 産経ニュース
6月29日付産経ニュースに“中露にらみ新戦術”とい興味深い記事が掲載された。
日米共同訓練が行われたのは、北海道矢臼別演習場と、米軍が展開した奄美大島である。
矢臼別演習場は、国内最大の演習場である。根釧台地にあり、東西約30キロ、南北約10キロの広さを誇り、最大約18キロの砲撃訓練ができる。
さて、表題は新戦術としているが、その内容については、二つ目の引用記事に書いてある。だが有料記事なので引用できない。
だが真新しいことが書いてあるわけではない。簡単に言うと、敵の電磁波情報を収集し、無人機等による情報と合わせて分析して、敵の所在を明らかにし、遠距離からの砲撃等によって撃滅する、というものだ。
実に教科書的戦術だ。こういう概念は、陸自草創期からあり、昭和の時代も平成の御代も自衛隊は、その実現に向けて細々と努力してきている。
昭和56年、陸自久里浜駐屯地に所在していた通信標定隊は、北海道東千歳駐屯地に移駐し、第1電子隊として、新たに発足した。標定隊は、戦場を飛び交う敵の電波を標定することを任務とする部隊である。
これが第1電子隊となり、標定(電磁波情報の収集)と電波発射を任務とするようになった。
標定とは何かというと、敵の電波源を特定することである。詳しい説明は省略するが、敵の周波数などの特性により、電波の発射された位置を概ね特定することができるのだ。
そして、その情報と、偵察衛星情報、航空偵察や偵察隊などの偵察情報を総合的に評価して、砲撃や航空攻撃目標の優先順位を決めるのである。
こういう訓練を自衛隊は、昭和の時代から連綿と行ってきている。だが、予算は増えないため、極々限られた範囲でのみ可能な戦術だった。
今回、産経の有料記事で紹介されているのは、その現代版である。
ちなみに第1電子隊が北海道に移駐したのは、当時、最も脅威だった、ソビエト連邦を想定した結果である。現在では、西部方面隊に同じような電子線部隊が編成されて展開している。当然、中国を意識してのことだ。
隔世の感がある。米軍が、米陸軍の高機動ロケット砲システム(HIMARS=ハイマース)や、鹿児島県の奄美大島に米陸軍の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を展開したのは、米空母の損害を局限するためだと伝えられている。
空母に搭載されている各種航空機は、一か所に搭載されているため、ミサイルなどによる攻撃を受けた場合、甚大な損害を被る恐れがあるため、ハイマースやPAC3を地上展開し、中国海空軍を牽制しようとしているわけだ。

島嶼部に展開したミサイル部隊を発見して撃滅するためには、有人無人航空機、偵察衛星などにより目標情報を得ることになるだろうが、相当な損害を予想しなければならない。つまり、費用対効果が悪いのだ。
中国軍も戦力が無尽蔵なわけではない。なるべく損害を少なくし、効果を最大にしたいのだ。どこの国も同じように考える。
南西諸島のミサイル部隊を発見するために大規模な航空偵察を行えば、相当数の損害が予想される。そして、ミサイル部隊を100%発見できるわけではない。そこが問題なのだ。
対艦ミサイルや対空ミサイル部隊が残存している可能性がある限り、特に大規模な海軍艦艇による作戦行動は制約を受けるのだ。損害を局限するために。のうのうと宮古海峡を通峡できるわけではないのだ。
今回の日米共同訓練は、そういった訓練をすることで、中国軍に一定のプレッシャーを与えると同時に、中国軍の取りうる作戦の融通性を狭める効果がある。
そもそも空母遼寧は、張り子の虎なので、実戦に供し得ない。まともな海軍を持たない東南アジアの国向けの装備だ。問題は、第2・第3の空母だ。この空母は、当然遼寧より進歩しているだろう。エンジン出力は向上しているだろうし、艦載機も多数搭載できるように設計されている筈だ。
ただ、空母艦載機の出力不足が解決されているという情報は未だないようだ。つまり、新空母が進水しても、しばらく戦力にはならないだろう。だが、それがいつ実用化されるかは日米にもわからないので、安穏としているわけにはいかない。明日、問題が解決されるかもしれないのだ。そのために、営々と準備するのである。それが軍隊というものだ。
新戦術は新戦術ではない。米国はともかく、我が日本も少し本気になってきたというところだろうか。だが台湾有事は近い。ゆるゆるとした動きを中国は待ってはくれない。今からでも遅いくらいなのだ。
今年中にも行われるであろう衆議院選挙の結果を受けて、新政権が、防衛費を倍増し、将来の危険を少しでも減らしてくれることを望むものである。
陸自最大の演習場と雖も最大実弾射撃距離18キロは短い。今や射程距離30キロ以上が列国砲兵の常識である。やむなく、米国での射撃訓練が常態化している。国内にこれ以上の演習場を開設するのは、現実的ではない。だから現状はやむを得ない。
それだけはない。何度か言及しているが、自衛隊の兵站が脆弱なのだ。そして、勢力も。古来、兵員と兵站は、戦勝を左右する最も重要な要素の一つである。どんなに有能な将軍が部隊を率いても、限度がある。「大兵に戦術なし。」と言われるように、最後は兵の多寡が勝敗を決することが多いのだ。
兵站(ロジスティクス)もそうだ。ローマはロジスティクスで勝つ、と言われた。それほどローマ軍の戦いはスマートでシステマティックだった。兵站も一朝一夕に準備できるものではない。
防衛費を増額するなら、真っ先に手を付けるのは、勢力(自衛官の数)と兵站だろう。この二つは、必要な状態にするまでに、長い時間を必要とするからだ。ミサイルや砲弾を製造する工場や保管する弾薬庫の整備には、膨大な時間と予算が必要なのだ。
日清戦争から、大東亜戦争まで、帝国陸海軍を悩ませたのは、脆弱な兵站態勢だった。その問題点は、自衛隊になっても依然として解決されていない。問題点を知りながら放置するのは、大人の行いではない。戦争において、現実から目を背けることは敗戦を意味する。それは、究極的には、我が国の滅亡を意味する。日本人はそのことをよくよく考えるべきだと酒楽は思う。
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