敵地潜入
酒楽が学生時代だったころのお話です。場所は東富士演習場でした。陸上自衛隊が毎年総合火力演習を行う演習場です。夏の定期訓練で、1か月、演習場に山籠もりし、訓練に明け暮れたのでした。
総合訓練の一日目、昼頃から行軍を始め、夜明けごろ敵陣地正面に進出しました。約30キロ、敵の遊撃部隊の襲撃を駆逐しつつの行軍で疲れ果てた我が部隊は、夕刻からの敵陣地配備の解明のため、しばし仮眠体制に入りました。
夕方、我が中隊正面を見通せる地点に前進し、中隊長から、各斥候に潜入偵察地域が割り振られたのです。酒楽は、バディのミツオと一緒に、敵に対し、最右翼の地域を担当することになりました。
闇夜が訪れるまでの数刻、ミツオと酒楽は、敵陣地をじっくり観察し、潜入経路を決めました。それは、中隊長の示した偵察地域よりも更に右側を経由するように計画したのです。
東富士演習場は、火山灰の多い地質です。雨が降ると、火山灰が流され、地隙(ちげき)ができます。大中小あります。観察していると、酒楽チームが進む経路上にいい具合の地隙があって、どうやら敵陣地の方に向かっているのが観察できたのです。そこを伝って敵陣地前面まで肉薄し、場合によっては、陣内に潜入して・・・などと思ったのでした。
それから数刻、演習場は闇に閉ざされました。ミツオと酒楽は、予定通り、地隙の中をゆっくり前進しました。音をたてないように、静かに静かに前進します。時折、顔を出して敵陣の動きを探ります。敵陣地は、静寂を保っていて、酒楽チームが発見された可能性は低いものと判断しました。
もう敵陣地まで30メートルもないと思われる地点まで進出しました。その頃、酒楽チームの左側を進んでいた斥候が、敵に発見されたのか、誰何(すいか)の声が聞こえました。斥候は直ちに離脱したようです。酒楽チームの前には、敵の影が見当たりませんでした。
誰何の声が聞こえなくなってから、しばらく様子を見ていたのですが、あたりは再び静寂に包まれました。ミツオと酒楽は、ゆっくり匍匐前進しながら、敵陣に迫ります。
それから30分くらい前進した頃、停止して、周囲の状況を確認しました。するとどうでしょう、いつの間にか敵陣地の中にいるではないですか。
停止した位置から、左側の背後の方に、敵陣地があり、塹壕が掘られているようです。敵は、酒楽チームに気付いていないようです。

陸上自衛隊HPから引用
ミツオと二人で、静かに敵陣地を観察し、塹壕の位置、敵兵の動き、鉄条網の有無などを観察しました。暗いので正確な位置はわかりませんが、帰って報告できるように、一生懸命記憶したのです。
これ以上の情報収集は命の危険を伴うので、そろそろ脱出します。ミツオと酒楽は、もときた経路を辿って味方のいる場所まで、静かに後退し始めたのです。
後退を始めて10分くらい経過したとき、突然「止まれ!」と誰何を受けました。二人とも心臓が止まるほど驚きました。そして、「逃げろ」と小さく叫んで、二人は、味方地域に向かって全力で走り始めたのです。闇夜の中を。
闇の中は危険がいっぱいです。敵の制止を振り切って、命からがら全力疾走していた酒楽とミツオは、数秒後、空中を飛んでいました。そして、直後に地面にたたきつけられたのです。衝撃で息ができませんでしたが。敵に襲撃されれば一巻の終わり。痛みをこらえ、息を殺し、銃を抱えたまま、その場に伏すこと数分。
「おい、大丈夫か」と酒楽。「大丈夫だ」とミツオ。小さな声で無事を確認し合ったのでした。どうやら闇夜を疾走した挙句、数メートルの地隙に同時に落ちたのでした。今考えると、よくケガをしなかったなと思います。
10分後、無事帰還し、中隊長(教官)に偵察結果を報告したのですが、不思議そうに、「よくそんな奥深くに行けたな」と言うのです。それで、潜入経路を説明すると、どうやら敵陣地は数個中隊あって、ちょうど境界線上を潜入したようなのです。A中隊とB中隊のど真ん中で、どちらも陣地を構築していなかったところだったようでした。
その前の年、北海道での部隊実習で、現役部隊の中隊検閲に参加したことのある酒楽は、本物の中隊検閲に比べれば、学生の訓練は何とお気楽なものだな、というのが正直な感想でした。1年後、その北海道に渡って、部隊に配置されるとは予想もしていなかったのですが。
普通科(歩兵)部隊の厳しさを知った酒楽は、「普通科だけはやめておこう」と密かに決心したのはいうまでもありませんww
酒楽が学生時代だったころのお話です。場所は東富士演習場でした。陸上自衛隊が毎年総合火力演習を行う演習場です。夏の定期訓練で、1か月、演習場に山籠もりし、訓練に明け暮れたのでした。
総合訓練の一日目、昼頃から行軍を始め、夜明けごろ敵陣地正面に進出しました。約30キロ、敵の遊撃部隊の襲撃を駆逐しつつの行軍で疲れ果てた我が部隊は、夕刻からの敵陣地配備の解明のため、しばし仮眠体制に入りました。
夕方、我が中隊正面を見通せる地点に前進し、中隊長から、各斥候に潜入偵察地域が割り振られたのです。酒楽は、バディのミツオと一緒に、敵に対し、最右翼の地域を担当することになりました。
闇夜が訪れるまでの数刻、ミツオと酒楽は、敵陣地をじっくり観察し、潜入経路を決めました。それは、中隊長の示した偵察地域よりも更に右側を経由するように計画したのです。
東富士演習場は、火山灰の多い地質です。雨が降ると、火山灰が流され、地隙(ちげき)ができます。大中小あります。観察していると、酒楽チームが進む経路上にいい具合の地隙があって、どうやら敵陣地の方に向かっているのが観察できたのです。そこを伝って敵陣地前面まで肉薄し、場合によっては、陣内に潜入して・・・などと思ったのでした。
それから数刻、演習場は闇に閉ざされました。ミツオと酒楽は、予定通り、地隙の中をゆっくり前進しました。音をたてないように、静かに静かに前進します。時折、顔を出して敵陣の動きを探ります。敵陣地は、静寂を保っていて、酒楽チームが発見された可能性は低いものと判断しました。
もう敵陣地まで30メートルもないと思われる地点まで進出しました。その頃、酒楽チームの左側を進んでいた斥候が、敵に発見されたのか、誰何(すいか)の声が聞こえました。斥候は直ちに離脱したようです。酒楽チームの前には、敵の影が見当たりませんでした。
誰何の声が聞こえなくなってから、しばらく様子を見ていたのですが、あたりは再び静寂に包まれました。ミツオと酒楽は、ゆっくり匍匐前進しながら、敵陣に迫ります。
それから30分くらい前進した頃、停止して、周囲の状況を確認しました。するとどうでしょう、いつの間にか敵陣地の中にいるではないですか。
停止した位置から、左側の背後の方に、敵陣地があり、塹壕が掘られているようです。敵は、酒楽チームに気付いていないようです。

陸上自衛隊HPから引用
ミツオと二人で、静かに敵陣地を観察し、塹壕の位置、敵兵の動き、鉄条網の有無などを観察しました。暗いので正確な位置はわかりませんが、帰って報告できるように、一生懸命記憶したのです。
これ以上の情報収集は命の危険を伴うので、そろそろ脱出します。ミツオと酒楽は、もときた経路を辿って味方のいる場所まで、静かに後退し始めたのです。
後退を始めて10分くらい経過したとき、突然「止まれ!」と誰何を受けました。二人とも心臓が止まるほど驚きました。そして、「逃げろ」と小さく叫んで、二人は、味方地域に向かって全力で走り始めたのです。闇夜の中を。
闇の中は危険がいっぱいです。敵の制止を振り切って、命からがら全力疾走していた酒楽とミツオは、数秒後、空中を飛んでいました。そして、直後に地面にたたきつけられたのです。衝撃で息ができませんでしたが。敵に襲撃されれば一巻の終わり。痛みをこらえ、息を殺し、銃を抱えたまま、その場に伏すこと数分。
「おい、大丈夫か」と酒楽。「大丈夫だ」とミツオ。小さな声で無事を確認し合ったのでした。どうやら闇夜を疾走した挙句、数メートルの地隙に同時に落ちたのでした。今考えると、よくケガをしなかったなと思います。
10分後、無事帰還し、中隊長(教官)に偵察結果を報告したのですが、不思議そうに、「よくそんな奥深くに行けたな」と言うのです。それで、潜入経路を説明すると、どうやら敵陣地は数個中隊あって、ちょうど境界線上を潜入したようなのです。A中隊とB中隊のど真ん中で、どちらも陣地を構築していなかったところだったようでした。
その前の年、北海道での部隊実習で、現役部隊の中隊検閲に参加したことのある酒楽は、本物の中隊検閲に比べれば、学生の訓練は何とお気楽なものだな、というのが正直な感想でした。1年後、その北海道に渡って、部隊に配置されるとは予想もしていなかったのですが。
普通科(歩兵)部隊の厳しさを知った酒楽は、「普通科だけはやめておこう」と密かに決心したのはいうまでもありませんww
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